失われたフィルムをめぐって、夢と現実、現在と過去、映画と人生が交差する―。
ヒット作に恵まれず、新作を撮る目処が立たない映画監督のジワン。彼女が引き受けたのは、60年代に活動した韓国の女性監督、ホン・ジェウォンが残した映画『女判事』の欠落した音声を吹き込むという仕事だった。作業を進めながらフィルムの一部が失われていることに気づいたジワンは、ホン監督の家族や関係者のもとを訪ねながら真相を探っていく・・・。
映画を撮り続けたいという思いを抱きながらも、ジワンには母、妻としての日常生活がある。キャリアの曲がり角で立ち往生しそうになっている彼女がはじめた、失われたフィルムをめぐる旅。そこでジワンは女性が映画業界で活躍することが、今よりもずっと困難だった時代の真実を知る。夢と現実、現在と過去。その狭間を行きつ戻りつしながらも、ジワンはフィルムの修復とともに自分自身を回復させるようかのように人生を見つめ直し、新しい一歩を踏み出していく―。
主演は『パラサイト 半地下の家族』など韓国を代表するバイプレイヤーのイ・ジョンウン。年齢を重ねて感じる心と体のゆらぎを、きめ細やかな芝居で表現し、単独初主演にしてアジア太平洋映画賞最優秀演技賞を受賞した。夫を演じるのはホン・サンスの常連としても知られるクォン・ヘヒョ。息子役に『愛の不時着』のタン・ジュンサン。韓国映画、ドラマファンにお馴染みの幅広い年代の実力派俳優が集結した。監督はシン・スウォン。悩みながらも映画を撮ることを諦めないジワンに自身を投影させ、女性たちが時を超えて手をつなぎ、連帯していく物語に昇華させた。
私は2010年のデビュー以来、10年間小さな映画を撮り続けてきました。 『オマージュ』は私にとって6本目の長編映画です。これまで何度か成功し、何度か失敗してきました。2020年、撮り始めて10年、パンデミック宣言の直前、私の人生において映画とは何かと考えました。私はアニエス・ヴァルダのように映画を撮り続けることができるのか。映画を撮るときはいつも、これが私の最後の映画になるのではと緊張します。怖くなるたびに、私に勇気を与えてくれた人のことを思い出していました。
2011年、私は韓国初の女性映画監督パク・ナモクと2人目のホン・ウノンについてのテレビドキュメンタリーを撮影しました。そのとき、2人の女性監督と親交のあった80歳の女性編集者に出会いました。彼女は韓国映画を100本ほど編集したが、残りの人生を釜山で一人、孤独と貧しさを感じながら過ごしていました。撮影の最終日、彼女はしわくちゃの手で私の手を強く握り、最後まで映画監督として生き抜くようにと言ったのです。その手から伝わってくる熱い魂を、私は今でも鮮明に覚えています。
私は、彼女たちの物語を映画にしようと決意しました。この映画は、かつて輝きながら消えていったものたちへの、私のオマージュでもあるのです。
自主制作映画『虹』(09)で監督デビュー。教師を辞め30歳を過ぎた女性として映画監督を目指した自身を投影し、第11回全州国際映画祭でJJスター賞、第23回東京国際映画祭で最優秀アジア・中東映画賞を受賞。その後、短編映画『Circle Line』で第65回カンヌ国際映画祭批評家週間最優秀短編映画賞(Canal+賞)を受賞。韓国の教育システムの競争原理を描いたスリラー作品で長編2作目となる『冥王星』(12)は、第17回釜山国際映画祭でプレミア上映され、第63回ベルリン国際映画祭のジェネレーション部門で特別賞を受賞した。3作目の長編『マドンナ』(15)が第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門に選出、4作目の『ガラスの庭園』(16)は第22回釜山国際映画祭のオープニング作品として上映された。5作目の『LIGHT FOR THE YOUTH』(19)が第24回釜山国際映画祭のパノラマ部門に招待、フィレンツェ韓国映画祭で観客賞を受賞。本作は第34回東京国際映画祭コンペ部門に選出され、第15回アジア太平洋映画賞ではイ・ジョンウンに最優秀演技賞をもたらした。